自分のような、入社までのイベントを終えてしまった社会人にとって春は特別な季節ではない。むしろ、もう4月1日に胸を膨らませることのない年齢になってしまったのだなと憂鬱になる季節である。あとかなり重度の花粉症を拗らせているのでシンプルにこの季節は生きづらい。
それでも、桜を見ることは好きだ。
わざわざ週末に中目黒に行って苺のシャンパンとともに桜の写真を撮るほどの熱量はないが。
桜を見ると、きっと平安時代の人も、江戸時代の人も、同じように桜が散ってしまうのが寂しいと感じたのだろうな、と思う。歴史上に名を残した人物たちがそう思っていたということは、おそらくその何十倍、何百倍の人が桜を見て物思いに耽ったことだろう。
そう思うと、いくら今の日本の行先が明るくなく、泥舟に乗っているような現状だったとしても、桜が咲く国に生まれてよかったと思ってしまう。
薔薇を見て美しいと思うことはあっても、中世の貴族が薔薇が枯れるのを悲しいと思っただろうな、などと考えることはない。そんなふうに考えるのは桜を見た時だけだ。そして、そう考えるときに自分も日本人なのだなあ、と再認識する。
ちなみに、こんなに桜について語っているが、一番好きな花は彼岸花だ。冬を予感させるようなひんやりとした空気の中、血を連想させるような鮮明な赤で染め上げられた彼岸花が咲いているのを見ると、堪らなく切ない気持ちになる。
今年はどんな一年になるだろう。人生であと何回、桜が見られるのかな。人生で最後に桜を見るとき、私は幸せだろうか。